介護事故裁判例集

弁護士による介護事故裁判例の紹介

浣腸による死亡事故

大阪地裁 平成24年3月27日 判決

だれがだれを訴えた?

原告(訴えた側)   Aさんの遺族

被告(訴えられた側) 介護老人保健施設

裁判の結果はどうなった?

判決(裁判所の最終判断) 

介護老人保健施設Xが、Aさんの遺族に下記の金額を支払う。

慰謝料 800万円

事故当時の原告の状態

Aさん 女性・80歳 

・要介護2

認知症あり。

・糖尿病により血液透析が必要。

 ショートステイで介護老人保健施設Xに6日間滞在し、

 退所翌日に透析を行う予定だった。

事故の経緯

・翌日の透析に備えて、対処予定日に看護師が浣腸を行った。

・Aさんの浣腸は、立った姿勢で行われた。

事故後の原告の状態

・浣腸の翌日に発熱し、その翌日に死亡。

 

判決の内容

事故の状況は……

 介護老人保健施設Xは、ショートステイ利用者の約半数が透析を受けている。

便秘に対しては、滞在期間中に排便をすませるように対応していた。

 具体的には、

①下剤を服用 → ②座薬の挿入 → ③様子を見て、透析の前日までに浣腸

という手順で処置を行っていた。

 Aさんは平成21年10月22日にショートステイ入所。

24日から3日間排便がなかった。28日に透析を受ける予定だったため、

27日に看護師によって浣腸を行った。

 Aさんは28日に発熱し、29日に死亡した。

 

裁判所の判断

 Aさんの死亡は、立った姿勢で浣腸が行われた際に直腸壁が傷ついたこと、

さらにその傷が拡大したり腸壁に穴が開いたりしたことによって

敗血症を発症したためであることが、かなり確実に推察される。

 そのため、担当の看護師による浣腸の際の体位の選択は、

注意義務違反(その行為をする際に一定の注意をしなければならない

法律上の義務を怠ること)といえる。

また、誤った体位の選択がAさんの死亡の原因となったことはほぼ明らか。

 こうしたことから、介護施設Xは、Aさんに対する

不法行為(他人に損害を与えること)または

療養看護契約上の債務不履行(契約上の義務を果たさないこと)により、

死亡による慰謝料を支払う義務がある。