介護事故裁判例集

弁護士による介護事故裁判例の紹介

ショートステイの際のベッド脇での転倒


東京地裁 平成24年5月30日 判決

 

だれがだれを訴えた?

原告(訴えた側)   Aさん

被告(訴えられた側) 介護施設X 

 

裁判の結果はどうなった?

判決(裁判所の最終判断) 介護施設Xの責任を認めない

 

事故当時の原告の状態

Aさん・84歳 

要介護2(事故の起こった日の約1週間後から要介護3となることが決まっていた)

 

事故の経緯

ショートステイで個室を利用。

・徘徊を繰り返すため、夜間はベッドにセンサーを設置し、Aさんがベッドを離れるたびに職員が対応していた。

・早朝、センサーが反応した直後にAさんが転倒した。

 

事故後の原告の状態

・頭部打撲による脳挫傷

 

判決の内容

事故の状況は……

 Aさんが介護施設Xをショートステイで利用するのは2回め。初日から徘徊を繰り返したため、職員が見守りを実施。
 ベッドに離床センサーを設置し、Aさんがベッドを離れるたびに対応した。

 

◆事故前夜からの経緯

 午後8時50分頃就寝。

 午後10時から午前2時30分にかけて、5回ベッドを離れた。離床センサーが反応するたび、施設職員1名または2名が居室へ行き、Aさんをベッドやソファに誘導して寝かせた。

 午前4時に職員が巡回した際、Aさんが下着を脱いで失禁。着替えに抵抗したが、最終的には職員2名で居室に誘導してベッドに寝かせた。

 午前6時頃に職員が巡回した際、Aさんは眠っていた。

 午前6時20分頃、離床センサーが反応。その約15秒後にAさんの居室から「ドスン」と音がした。
 職員が居室に向かうと、Aさんがベッド脇に、体の右側を下にした姿勢で倒れていた。
 Aさんに意識障害はなく、頭の痛みを訴えた。職員が確認したところ、後頭部にこぶがあった。

 午前10時10分頃、病院を受診。CT検査を受けたところ、前頭部に出血が確認された。

 午後1時5分、転送された脳神経外科病院で頭部打撲による脳挫傷と診断された。

 

裁判所の判断

◆介護に関する契約について

 本件の介護契約は、要介護認定を受けた高齢者を、利用者として施設に収容した上で介護することを内容とするもの。介護を引き受けた者(介護施設X)には、利用者の生命、身体等の安全を適切に管理することが期待されると考えられる。

 介護施設Xは契約に伴い、Aさんに対して生命、健康などを危険から保護する「安全配慮義務」を追っているといえる。
 ただしその内容や、違反があるかどうかについては、本件の介護契約の前提となる介護施設Xの体制(人、設備、体制など)、Aさんの状態などに照らし合わせて現実的に判断すべき。

 

介護施設の責任について

 Aさんの居室のベッドには転落を防止するための柵が設置されており、それに加えて介護施設Xでは、Aさんの居室に離床センサーを取り付け、Aさんがベッドから離れた場合に対応することができる体制をつくった。
 実際に、職員はセンサーが反応するたびに居室を確認し、Aさんを寝かせるなどの対応をしている。また、職員は夜間、少なくとも2時間おきに巡回し、Aさんの様子を把握している。

 さらに本件事故前には、Aさんの介護支援専門員に対し、施設での転倒を防ぐために退所させることや睡眠剤の処方を相談している。

 事故の直前にセンサーが反応した際は、職員2名が事務所で別の利用者への対応に当たっていたが、その利用者の安全を確保したうえで対応を中断し、Aさんの居室に向かっている。

 これらのことから、介護施設Xは、他の利用者への対応も必要な中で、原告の転倒の可能性を踏まえて負傷を防ぐために設備や人員体制を配慮し、Aさんの転倒を防ぐための措置を取ったといえる。

 転倒後、Aさんには意識があったこと、職員が経過観察していたところ、午前9時55分になって吐き気を訴えたこと、午前10時10分には病院へ搬送されていることなどから、Aさんが事故後すぐに救急搬送が必要な状況にあったとはいえない。

 以上により、介護施設Xに安全配慮義務違反や、故意または過失による不法行為(他人に損害を与える行為)があると認められる証拠はない。