介護事故裁判例集

弁護士による介護事故裁判例の紹介

パーキンソン病をもつ高齢者の転倒

東京地裁 平成24年3月28日 判決

だれがだれを訴えた?

原告(訴えた側)   Aさん

被告(訴えられた側) 介護施設X 

裁判の結果はどうなった?

判決(裁判所の最終判断) 介護施設Xが、Aさんに下記の金額を支払う。

損害賠償 207万円(※)

※医療費、近親者の看護介助費用、入通院慰謝料の総額

事故当時の原告の状態

Aさん 女性・79歳 

パーキンソン病(重症度分類4)を発症。杖を使って歩くことはできるが、見守りが必要。

介護施設X入所後約1年1カ月の間に、15回転倒している。

事故の経緯

・Aさん自身が、トイレ介助をした職員に転んだことを伝えた。

・施設側は30分~1時間おきに巡回していたが、その際Aさんは寝ており、職員はAさんの転倒に気づいていなかった。

事故後の原告の状態

・転倒した際、左大腿骨転子部を骨折した。

判決の内容

事故の状況は……

 Aさんはパーキンソン病と診断されていた。杖を使えばひとりで歩くことはできるが、よろけるため、見守りが必要だった。入所から約1年1カ月の間に15回転倒しており、転倒の危険があることは施設側も承知していた。

 施設側は、Aさんを一般の居室から認知症専門棟に移し、Aさんのベッドは夜勤の職員がいるサービスステーションからよく見える位置に配置した。ベッドの近くにポータブルトイレも置いたが、Aさんは施設内のトイレを使うこともあった。

 認知症専門棟に移ってから約1カ月後、Nさんは19時30分にリハビリパンツを着けて就寝した。20時30分と22時頃、Aさんが体を動かしたため、職員がトイレ介助を行った。

 0時30分、Aさんがベッドから1mほど離れたところを歩いているのに気づき、職員がトイレまで付き添い、介助を行った。1時、2時、2時30分、3時、4時、5時に職員が巡回した際には、Aさんは眠っていた。

 5時30分、Aさんが体を動かしたため、職員がトイレ介助。その際、Aさんから「私、転んじゃったの」と伝えられて転倒事故があったことに気づいた。

 その後、Aさんは大腿骨骨折と診断された。

 

裁判所の判断

 Aさんは介護施設Xに入所後に何度も転倒しており、施設側はAさんが転倒する危険性が高いことをよく知っていた。

 施設側は入所者に対して、入所利用契約上の安全配慮義務を負っている。その義務には、Aさんがベッドから立ち上がる際などに転ばないように見守ることや、転倒する危険のある行動に出た場合には、転倒を避けるための措置を講ずることも含まれる。

 事故当日、Aさんはベッドから立ち上がり、転倒する危険のある行動に出た。しかし施設側のAさんに対する見守りが不足していたため、この行動に気づかず、転倒を防ぐ適切な措置を講じることができなかったために転倒事故が起こったといえる。仮に、職員による見守りの空白時間に事故が起こったのだとすれば、空白時間帯に対応する措置が不足していたといえる。

 こうしたことから、介護施設Xは、Aさんに対する債務不履行(契約上の義務を果たさないこと)による損害賠償の責任を負う。