介護事故裁判例集

弁護士による介護事故裁判例の紹介

ショートステイ利用者の転倒事故


福岡地方裁判所小倉支部 平成26年10月10日 判決

だれがだれを訴えた?

原告(訴えた側)   Aさんの遺族の1人(法定相続分5分の1)

被告(訴えられた側) 介護施設

裁判の結果はどうなった?

判決(裁判所の最終判断) 

介護施設Xは、Aさんに慰謝料2200万円を支払うべき。

法定相続分5分の1である原告には440万円と弁護士費用40万円を支払う。

事故当時の原告の状態

Aさん  女性 96歳

・要介護2

・室内では歩行器、屋外ではシルバーカーを利用。

・背中が丸くなっていたため歩行器等のグリップから体を離して

 歩いており、歩行中に転倒する危険があった。

事故の経緯

ショートステイ介護施設Xに滞在した際に事故が発生。

・Aさんがユニットの共同生活室から個室に移動する際、後ろ向きに
 転倒した。

事故後の原告の状態

・胸椎を圧迫骨折し、発熱、呼吸困難等の症状を経て死亡。

判決の内容

事故の状況は……

 Aさんの体の状態については、「屋外を歩く際、足がもつれてほとんど進まないことがある」という記録がある。

 また、訪問看護計画書の「変形性脊椎症により、腰椎変形や右肩関節可動域制限があり、右手指骨骨折治療後にて力が入りにくく、転倒する可能性が高い」との記載からも、歩行中にいつ転倒してもおかしくない状態であったことがわかる。

 これらのことから、介護施設XはAさんが「いつ転倒してもおかしくない状態である」ことを認識しており、事故を予見(前もって推察)することが可能だったと考えられる。

 介護施設Xでは、Aさんが歩行する際、離れた位置からの見守りを行っていた。

 

裁判所の判断

 「離れた場所からの見守り」は、転倒した後の介助や手当てといった「事故が起こった後の対応」を前提とせざるを得ない。

 Aさんが「いつ転倒してもおかしくない状態」であった以上、介護施設Xは、離れた場所からの見守りにとどまらず、可能な範囲で歩行介助や近接した位置からの見守り等、転倒を防止するための適切な措置を講じる義務があった。