介護老人保健施設での転倒事故
だれがだれを訴えた?
原告(訴えた側) Aさんの遺族
被告(訴えられた側) 介護施設X
裁判の結果はどうなった?
判決(裁判所の最終判断)
介護施設Xの責任を認めない。
事故当時の原告の状態
Aさん 女性・92歳
・要介護2
・シルバーカーを使ってひとりで移動することができた。
・ベッドへの乗り降りや身の回りのことはひとりですることができた。
・認知症は軽度。
事故の経緯
・介護老人保健施設Xに入所していたAさんが、施設内でシルバーカーを使ってトイレに 向かう際、転倒して頭を打った。
・Aさんの横には職員がついていた。
事故後の原告の状態
・事故直後に医師の診察を受け、すぐに検査を行う必要はないと判断されて経過観察を行った。
・症状が現れて入院し、脳挫傷、外傷性くも膜下出血により死亡。
判決の内容
事故の状況は……
Aさんは、ベッドへの乗り降りや身の回りのことは自分ですることができ、認知症も軽度。シルバーカーを使って、自力で移動することもできた。
施設では、①Aさんが靴をきちんと履いていることを確認する、②周囲にものを置かないようにする、③物にぶつからないようにAさんの歩行を目で追い、危ないときは近寄って一緒に歩く、といった対策を講じていた。必要に応じて声掛けをすることはあったが、歩く際に体を支えるなどの介助を行うことはなく、そういった介助の必要もなかった。
Aさんは事故以前に、しりもちをついたり、シルバーカーを利用中につまずいて膝をついたりすることはあったが、急に後ろへ倒れたことはなかった。
事故当日、Aさんはトイレに行くため、施設内の食堂からシルバーカーを教えて歩きはじめた。職員がAさんの横についてトイレに向かう途中、突然、仰向けに転倒して床に頭を打ちつけた。
事故の後、Aさんはすぐに医師の診察を受けた。その際の症状・状態から、すぐにCT等の検査を行う必要はないと診断されたため、経過観察を行った。
裁判所の判断
介護老人保健施設Xは、施設内での転倒等を防ぐために必要な対策を講じ、Aさんの安全を確保する義務を負っていた。ただしその義務は、Aさんの当時の歩行能力を前提に、転倒の危険を予見(前もって推察)することができる範囲で生じるものと考えられる。
事故の際のAさんの歩行能力や、それまでに「突然仰向けに倒れる」危険を予想させるような状態もなかったことから、職員が事故を予見(前もって推察)することは難しい。
そのため、施設側はこの事故を防止するべき契約上の責任を負っていたとはいえない。また、施設側が安全配慮義務(転倒防止義務)に違反したために、過失によってこの事故が起こったとも認められない。
さらに、Aさんにはすぐに診察を受けさせ、医師の診断に基づいて経過観察を行っていたのだから、施設側にAさんを病院に搬送するべき義務があったとも認められない。
こうしたことから、施設側にAさんの事故についての責任はないとした。