こんにゃくの誤嚥による窒息事故
横浜地方裁判所 平成12年6月13日判決
だれがだれを訴えた?
原告(訴えた側) Aさんの遺族
被告(訴えられた側) 介護施設X
裁判の結果はどうなった?
判決(裁判所の最終判断) 介護施設Xの責任を認めない。
事故当時の原告の状態
Aさん 男性・76歳
・軽度の嚥下障害があった。
・義歯をつけていたが、いやがって食事中には外すことが多かった。
事故の経緯
・老人保健施設(高齢者の自立支援と家庭復帰を目的とした通過型施設)に入所していたAさんが、夕食にだされたこんにゃくをのどにつまらせた。
・食堂内を巡回していた職員が事故に気づき、応急手当をした後、病院へ搬送した。
事故後の原告の状態
・病院で処置をし、自発呼吸ができるようになった。
・Aさんの家族が延命措置を希望しなかったため、翌日死亡した。
判決の内容
事故の状況は……
Aさんは老人保健施設に入所していた。40名の入所者には施設内の食堂で食事が出され、全面的に食事の介助を必要としている入所者はいなかった。食事中は3名の職員が巡回していた。
施設では腸の働きを改善し、便通を整える食材として、日ごろからこんにゃくも使われていた。誤嚥を防ぐため、こんにゃくは小さく切り分けられていた。
事故が起こった際、気づいた職員がAさんの口に指を差し入れ、喉からこんにゃく1個を取り出した。すぐ病院に搬送し、医師がさらにこんにゃく1個を取り出した。マッサージ、昇圧剤の投与といった治療によって自発呼吸をとり戻した。ただし、Aさんの家族がそれ以上の延命治療を望まなかったため、翌日、死亡した。
裁判所の判断
①こんにゃくを提供したことについて
誤嚥を引き起こしたこんにゃくは、小さく切り分けられるなど高齢者に提供するための配慮が十分になされており、食材としてこんにゃくを選んだことに注意義務違反(その行為をする際に一定の注意をしなければならない法律上の義務を怠ること)があったとはいえない。
また、介護施設Xの入所者は食事に関して自立しているため、通常の家庭料理になるべく近い食事を提供することは、施設の目的にも合っている。
②Aさんに職員が付き添っていなかったことについて
Aさん自身も食事介助を必要としていなかったため、職員が食事中にずっと付き添っていなかったことも注意義務違反にはあたらない。40名の入所者は全員、自分で食事をとることができたため、「3名の職員が食堂を巡回し、必要に応じて介助する」という体制も、食事の際の見守りシステムとして不徹底・不適切であるとはいえない。
③応急処置や治療について
事故発生直後に職員が気づき、すぐに一般的な救急救命措置を速やかに行っていること、病院に搬送して医師による処置を受けていることから、救急救命措置における過失もない。
①~③から、施設側にAさんの事故に関する責任はないものとした。